『釣りバカ日誌』的人生?!〜人生は人との繋がり/ECOMIRAI 伊藤一聡
- 2025/04/23
- 日系企業インタビュー
今回の日系企業インタビューは、ベトナムではまだ珍しい光触媒を使ってベトナムの環境問題に取り組むECOMIRAI。CEOの伊藤一聡さんに、ベトナムでの環境ビジネスについてお伺いしました。

目次
1.光触媒のプロフェッショナル
土佐谷:まずは、御社のベトナムでの事業について教えて下さい。
伊藤:光触媒を基盤にした仕事をしていますが、光触媒と言っても、なかなか馴染みがないと思いま す。簡単に言うと空気や水、土をきれいにする材料、それが光触媒です。身近なところで言えば、日本ではコロナで有名になった、室内の抗菌消臭のコーティングがそれです。1回のコーティングで3〜5年程度、消臭や抗菌効果が持続します。他にもビルや家の外壁に塗ることによって、水や雨が掛かると、自然に汚れを分解し、水で洗い流して、きれいな景観を5〜10年維持できるというものもあります。
2.光触媒との出会い
土佐谷:学生時代、光触媒の研究をされていたのですか?
伊藤: もともと大学で化学を専攻していましたが、光触媒に出会ったのは、単純に人との繋がりですね。教材営業をしていた時、趣味でよく上司と一緒に釣りに行っていました。その方が会社を辞めて、新しく環境系の会社を始められ、そこに私が呼ばれて行きました。最初は省エネ商品などを扱っていたのですが、その中の1つに光触媒があって、面白いね、ということで注力し、気づいたら15年経っていました。
土佐谷:今、ベトナムの会社とは別に、日本にも会社をお持ちですが、伊藤さんが立ち上げられた会社ですか?
伊藤: 日本にある会社は、個人事業の会社としてやっています。私自身、光触媒や省エネ商品のお話を頂くのですが、対ベトナムの会社と直接取引することに躊躇する日本の会社が多いのが現状です。日越の会社の取引の間に私の会社が入ることで、商品を販売する日本の会社としては、安心感が生まれる訳です。そのために日本にも会社を置いています。

3.いざベトナムへ〜枯葉剤被害に立ち向かう
土佐谷:2019年にダイオキシンプロジェクトで、ベトナムに進出された訳ですが、最初は光触媒ではなかった。
伊藤: いや、実はこれも光触媒です。ダイオキシンを分解する材料が光触媒なんです。
土佐谷:すると、環境問題の解決として、公共機関のようなところからお声が掛かったということですか?
伊藤: 違います。元々、ベトナムで事業展開を目論んでいた中堅業者さんから、ダイオキシンーベトナム戦争時にアメリカ軍によって撒かれた枯葉剤による環境汚染の原因になっているものですが、その処理が、戦後何十年も経った7〜8年前くらいから、アメリカの予算を使いながら始まった、光触媒が参入するチャンスじゃないか、と教えて頂きました。すでに空気中や、果物の表面に付いている農薬、油の中に入っているダイオキシンを分解した実績がありましたので、ちょっと手を加えて、土と光触媒を接触することができれば、土に混ざったダイオキシンを分解できるのではないかと。まずは実験で、一緒にやってみましょう、というところからベトナムでのビジネスが始まりました。
土佐谷:壮大なプロジェクトですね。それは今でも続いていますか?
伊藤: 私たちが実験した方法ではありませんが、アメリカ軍とベトナム軍の関係者で、処理作業自体は続いています。汚染は広範囲に及んでいますので、まだまだ続くだろうと思います。
土佐谷:その後、コロナが始まります。そこからコーティング事業にも乗り出そうという流れになったのでしょうか?
伊藤: 特に狙って進出した訳でもなく、流れでこうなっちゃった、というのが正直なところです。ダイオキシンプロジェクトの時、私はその時所属していた光触媒の会社の社員として参加していました。コロナ禍で、ベトナムに行くのが難しい状況、また大きなプロジェクトという理由で、プロジェクトへの参加は中止になりました。ただ、ベトナムにいた私は、経済成長真っ只中にいることを肌で感じていましたし、日本ではすでに光触媒の会社が200〜300社あるので、ベトナムの方がチャンスはあると思い、光触媒の事業部分を継ぐ形で、会社を辞めました。幸いなことに、その会社とは、他の事業分野でテクニカルコンサルタントとして今も良好な関係を続けることができています。辞めた会社の社長には今でも本当に感謝しています。
土佐谷:それは思い切った決断!
伊藤: それだけ魅了されたというか(笑)。
土佐谷:ちなみにお客様としては、ベトナム人と日本人、どちらが多いですか?
伊藤: 日本人のお客様が70%くらいです。でも最初からベトナム人に広めたいという思いがありました。ベトナムにコネクションがある人たちを巻き込んでやらないと、とパートナーを探しました。
土佐谷:個人、法人のどちらからも需要がありそうですが、その辺りはいかがでしょうか?
伊藤: 今は個人の方が多いですね。駐在の方は、病気や臭いの問題など心配事がたくさんあって、そこで需要と供給がマッチしているのかなと感じています。
4.ベトナムでのビジネスの難しさ
土佐谷:ベトナムで事業を始めてみたものの、難しいと感じたところはありますか?
伊藤: ベトナム独特のビジネスの考え方ですね。
土佐谷:それはベトナム人のパートナーやスタッフの意識の部分のこと?
伊藤: 対お客様です。私たちはB to Cもやりますが、B to Bに広げることでビジネスとして成立すると考えています。ですから、代理店や取扱店を増やしていかないと、と思っているのですが、ベトナム人が営む代理店に、考えを伝えるのが難しい。例えば、今私たちは光触媒コーティングを1平米15万ドンでやっていますが、抗菌で考えた場合、次亜塩素酸だと1平米3万ドンでできてしまいます。でもその効果はその場だけ。光触媒は5年。長い目で見たら、光触媒の方が費用対効果が高いよ、と説明しても伝わらない。目の前にかかるコストをだけで判断されてしまう、そこは今も苦労しています。
土佐谷:他の日系企業も同じようなことで、苦労されていますよね。
伊藤: そこをうまいことやれるよう、工夫していくしかないかな、と思っています。
土佐谷:ベトナム人から見たら、光触媒は新しい技術に映るでしょうね。個人的な意見になりますが、ベトナムの人たちは、新しいものを積極的に受け入れるというより、安定思考というか、自分たちが知っている既存のものを好む傾向にあると思います。光触媒コーティングは5年持ちます、とありますが、5年先のことはわからない。販路拡大で実績も増えていく中で、ベトナムの皆さんに理解してもらえるようになるといいですね。

5.ベトナムにおけるSDGs
土佐谷:御社のウェブサイトで、SDGsのロゴが掲載されていたことに驚きました。今、日本では当たり前のように企業理念とSDGsがセットになっています。もちろんSDGs自体悪いことではありませんし、みんなが同じ目標を持って取り組んでいることは素晴らしいと思いますが、個々の会社としてみた場合、そこに個性を感じない。ベトナムの場合、SDGsが知られていない分、逆に取り組んでいる会社が目立つというのか、私たちはこの問題に対して、こう取り組んでいます、というのが、とてもわかりやすかったです。戦略的に何か狙っているのかな、と感じたのですが、意図はありますか?
伊藤: ベトナムの環境意識を引き上げたいという思いはあります。先を見て動こうよ、と。役員は私の他2人のベトナム人がいますが、ベトナム人役員は、「こんなのいらない!」って言ってくるんです。何のことだかわからない、と。これは企業理念を国際レベルに押し上げるためだから、不要でも載せておく、という私の独断ですね。
土佐谷:私もベトナム人の知人にSDGsのことを聞いてみたのですが、そもそも言葉を知らない。世界や日本ではメジャーな言葉なのに、少し残念に思いました。
伊藤: ベトナムはまだ成長段階ですので、仕方がないことかもしれません。それでも掲げたいな、という思いがありました。
土佐谷:逆に子どもたちの方が、SDGsの考え方に触れている機会は多いかもしれませんよ。日本に『もったいないばあさん』と言う、“The SDGs”の絵本があって、ベトナム語版もすでにシリーズで4作品が出版されていますが、どれもベストセラーなんです。子どもですが、その考え方や重要性は絵本を通して自然と学んでいます。だから、その子たちが大人になったとき、SDGsはもっと一般的なものになっていると思います。ベトナムは国が決めたら一気に物事が進む国ですから、SDGsの一気に浸透する可能性は十分あります。ベトナムの未来は明るいです。
伊藤: 私自身も5、6年前に比べて、だんだんその意識が上がってきているのは感じます。
土佐谷:それはどういったところから?
伊藤: 例えば、ゴミの分別について最近、国から提言がありましたし、企業の排水・排尿の規制も以前より厳しくなっていて、きれいな国を目指して始めたな、と。環境系のビジネスは、いつ火がついてもおかしくない、そう思っています。

6.ECOMIRAIのこれから
土佐谷:今後の展望、会社としてやってみたいことはありますか?
伊藤: 初志貫徹ではないですけど、枯葉剤の分野はやりたいと思っています。ただ枯葉剤に絞ると難しい部分がありますので、それを応用した農薬で汚染された土壌の改善などをやってみたいです。また経済成長に伴って、環境意識が高まり、国としていろいろな技術を学ぼうとしている意欲を感じます。そこに対して、ローコストで良い結果が期待できる光触媒技術を使ったものを提案できたらと思っています。
土佐谷:今、御社の事業は北部中心でしょうか?
伊藤: 中部・南部も一部やっているところはありますが、代理店希望があればウェルカムです。人と気候の面から南部の方がやりやすいという話はよく聞きます。
土佐谷:御社のビジネスは、比較的拡大しやすいような気がしますが。
伊藤: 塗り方は簡単なので、1回見れば誰でもできます。ただ、日本品質を維持したいという思い入れがあります。例えば、お客様の家に上がらせて頂いて、勝手に脚立を借りて作業をしないとか、マナーや気配り面の研修は必要だと感じています。
土佐谷:ベトナムであっても、ホスピタリティの部分は日本品質にこだわりたいということですね。
伊藤: それはやるべきだと思っています。汚い足で家に上がって、きれいな空気を作ります、と言っても誰も信用しないでしょう。施工品質は担保していきたいです。ただそこには少し時間が掛かるかな、と思っています。
土佐谷:伊藤さんは、現場にも行かれますか?
伊藤: 施工時は必ず現場に行きます。何なら、私が見本を見せます。
土佐谷:何事も練習と実践は違いますし、現場で社長自らスタッフにお手本を見せることで、スタッフの意識は高くなるでしょうね。
伊藤: 日本人とベトナム人の“当たり前”は違うので、そこは何度も言わないといけないな、と思っています。
7.これからベトナムを目指す人たちに送る「3ヶ条」
土佐谷:長年ベトナムでビジネスをして来られた伊藤さんが、ベトナムで大切なこと3つ挙げるとしたら何でしょう?
伊藤: まずは「忍耐力」。予定通りに進まないことばかりなので、イライラしないこと。2つ目は、「ベトナムでの生活を楽しむ力」。3つ目は「柔軟な発想力」。日本と同じことをしようと思っても、国も違えば考え方も違います。ベトナム社会でやっていく以上、そこはベトナム向けにカスタマイズする必要があります。ある程度楽天的にやっていくことも大切です。
土佐谷:それがベトナムの楽しさでもあり、難しさなのでしょうね。結局、最後はどうにかなりますし。
伊藤: そうなんです。諦めずにやれば、なんとかなる。それがベトナムでの強みです。ベトナムにいる仲間は、とても大切です。結局大切なのは、人のつながりに尽きると思います。ビジネスチャンスはどこにでも転がっていますが、一緒にやる人はきちんと見定めること。人は時間が経つにつれ、当初の考え方と変わることがあります。また日本の常識が通用しないことも多々あります。そういうことに憤慨することなく、価値観や方向性を共有できる人と良いパートナーシップの関係を築けると、自ずと良い結果に繋がる、と自分自身の体験から感じています。繰り返しになりますが、頭でっかちではなく、柔軟な思考と諦めない気持ち。それがベトナムのビジネスにおいて大切なことだと思います。
文=土佐谷 由美


エコ未来
CÔNG TY CỔ PHÂN ECOMIRAI
<プロフィール>
伊藤 一聡(Ito Motoaki)
1973年/愛知県豊田市出身
光触媒職人
CÔNG TY CỔ PHÂN ECOMIRAI CEO
株式会社 トライ・アイ 技術顧問
得意分野:環境・建築・日越進出支援
経歴:光触媒や遮熱素材の販売開発研究 20年
アウトドア小売店 5年/教材営業 5年
木造住宅施工管理 5年/地方創生 5年
趣味:バイク・ゴルフ・釣り・キャンプ
ベトナム在住6年
ウェブサイト:
<ベトナム語>
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<株式会社トライ・アイ>
https://tri-i.jp/
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