「注文は1個から、お見積も1時間以内!」技術と経営を日本に学び起業/ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社

 「お客様の注文は1個からお受けできます。お見積もご要望をいただいてから1時間以内にご提案できます」
 主に、金属・プラスチックのコンピュータ数値制御(CNC)加工会社、ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社の副社長、グエン・ティ・キム・チュックはそう淡々といいきった。
 聞き手の私は驚いて、1個からでは儲けにならないし、1日ではなく、1時間以内ってすごく早くないですか?疑い深い私は質問をなげかけた。
 「もちろん1個からのご注文にはボリュームのあるオーダーの価格より特別の価格になります。お見積は必要な仕様書がすべて揃っていることが条件ですけどね」と彼女は笑顔を見せる。
 他にも同社の強みとして、コスト面では日本品質、ベトナム価格を目指し、世界どこへでも海、空、陸を通じてデリバリーできる、またロット検査ではなく、全品検査を施し、お客様にはご自分が発注された製品が今どの加工段階にあるかをオンラインで確認することもできるのだ、そう胸をはるチュック。

 ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社は、金属からプラスチックまでCNCによる精密加工、熱処理、表面処理を得意とする部品メーカーだ。主な客先は、電子、医療、ミシン、自動車、食品、包装など多岐にわたり、主な客先も日本とアメリカ、そしてベトナムに進出した日系企業だ。
 私はかつて糸篇(いとへん)、つまり繊維業界に身をおいていた。ベトナムで日本のスーパーマーケット向けにプライベートブランド(PB)の肌着をベトナム・ハノイで生産していた。今から30年ほど前だ。
 当時、ハノイには肌着工場といえば、1959年に中国の援助で建設されたかなり陳腐化、老朽化した工場しかなかった。そんな工場が取引先だった。編み機も古い。日本製のミシンや漂白機、編機を持ち込み、技術者を送りこんで、ようやく生産が開始された。
 当時もっとも困ったのは、付属(ふぞく)と呼ばれるタグやプラスチック個装、ラベルの調達だった。こういったものでも当時のベトナムには生産する企業はほとんどなかった。従来は主にソ連・東欧向けに輸出するか、国内販売だったので、資本主義国のスーパーで売る場合の「付属」など必要がなかったのだ。
 当時からベトナムの裾野産業、いわば下請企業の発展が望まれていた。日本は戦後、工業の発展にともなって、東京の太田区や大阪の東大阪市のように各種部品メーカーが雨後の筍のごとく生まれ、日本の自動車産業や電気電子産業を支えた。
 しかしベトナムのみならず、東南アジア諸国では外資の組立加工産業が誘致されても、そのまわりに集積したのはやはり海外の外資系企業の部品メーカーばかりで、その国の裾野産業の発展は日本と同じようには進まなかった。
 ベトナムにおいてはそれら工業の発展で先行したアセアン各国の教訓から、裾野産業の発展を後押しする独自の政策、日本からの支援も受けて裾野産業の一定の発達がみられる。
 このBizmatchインタビューではそうしたベトナムの裾野産業に属する企業をこれまでも紹介してきた。そして共通するのが、創業者はみな日本に技術や経営を学び、起業したと語っている。

 ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社も同様で、同社の最高経営責任者(CEO)のグエン・タン・フンもニャチャンの大学を卒業し、その後、日本にさらに留学して日本語を学び、大阪府日系企業に就職して勤務、精密機械工業の技術と経営について学んだ。およそ8年間、日本で過ごした間に彼は多くを学び、身につけ、2012年に帰国後、同社をホーチミン市に設立したという。「日本」に学んだことを活かして、母国ベトナムで起業した才能の一人だ。
 創業11年にして同社はベトナム南部に3箇所の工場を設けている。ホーチミン市12区、ドンナイ省、そしてホーチミン市クチ県だ。クチはベトナム戦争時代、共産ゲリラのトンネル基地があったことで知られ、当時のゲリラ基地が再現され、ホーチミン市観光の目玉としても知られている場所だ。
 従業員数は3つの工場合わせて80名。設備としては主にCNC精密加工機を中心に、表面加工、熱処理の機械を備えている。
 加工できる素材は、アルミ、銅合金、鉄鋼、ステンレス鋼、プラスチックなど多岐にわたり、客先も電子機械、医療、自動車、ミシン、食品、包装機械など、こちらも多くのメーカーとの取引がある。
 製品の40%は輸出で、ほぼ日本向けに輸出されており、国内販売ではベトナムに工場のある日系のメーカーが30%、米国系のメーカーが30%と極めて手堅い商売をしているといっていいだろう。高い加工精度をもとめる日本と米国の企業にのみ部品を提供しているところに同社の品質の高さが伺えるというものだ。
 国際標準化機構(ISO)の品質マネジメントシステムであるISO-9001:2008を2008年にはじめて取得、2018年にはISO9001:2015を取得している。
 また同社の先進的な面としては、LEAN-ERPシステムを2016年に導入していることだ。LEANとは英語で「無駄がない」ことを意味する。要はトヨタ生産方式に学び、開発された米国発のマネジメントシステムだ。ERPとは「企業活動におけるあらゆる情報を連携・集約した統合基幹業務システム」​​のことで、財務、人事、購買、生産、在庫、販売といった企業の活動を個別に管理するのではなく、総合的、一元的に管理しようとするものだ。
 同社はこのソリューションを導入することで、見積を短時間で提供できるようにする、あるいは、客先が発注した製品が今どの工程にあるのかをオンライン上で確認することができるようになっているというから驚きだ。同社の先進性を示すものだろう。

 「日本と米国の顧客との違い」を副社長に質問すると、こんな答えが帰ってきた。
 「日本の顧客は工場訪問をし、設備と我々の技術力について納得すれば、あとは正確かつ完璧な仕様書を送ってきて、個別の契約について一々うるさくいってこない。しかし、米国の企業は契約ごとに細かな規定を盛り込んで、まるで一から毎度仕事をするような厳格さがある」と述べた。どちらがやりやすいかといえば、「日本企業との取引だ」というのだ。
 日系企業であれば品質や納期にうるさいのは当たり前だが、部品メーカーに対して信頼感をもって継続的に仕事をしてくれるとの彼らの日系企業に対する認識は、実際の取引においては日系企業にも大きなメリットあたえてくれるはずだ。
 コロナ禍では3ヶ月にわたって、工場内に寝泊まりして生産を続けたという。ロックダウンに際して工員・幹部たちが工場に寝泊まり、飲食してなら、生産をつづげてよろしいという当局の指令があったためだ。それほど厳しいロックダウンをも乗り越えて生産は続けられた。
 昨今の円安について、副社長のチュックはこう語る。
「当社の製品は継続商品より、常に新しい仕様にもとづいて生産するので、円が安くなっても、価格は価格、お客様との交渉によって価格は決定されるので、円安はそれほど大きな問題にはなっていません」
 最後に、副社長チュックに「将来の夢は?」と尋ねると、「私は外国語が得意でなくて、今も日本人の方とお話するのにベトナム語でしょう?お客様は日本と米国の方ですので、一生懸命、日本語と英語を学んで、お客様と直接スムーズに会話し、商談ができるようになりたいんです」と語った。
 売上の倍増などといった営業担当副社長らしい回答を期待したのだが、意外にも外国語を学び、顧客とスムーズな交渉ができるようにとの「夢」を語ってくれたチュック副社長。
 実はこの企業は顧客との密接なコミュニケーションを重視するという点で、強みをもっている企業なのかもしれない、そう思えた。

その他金属加工』のよく読まれている企業インタビューはこちら
ベトナムの技能実習生が日本で金属加工技術を学び工場を立てた物語

ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社

ヴェット・ニヤット・タン精密機械有限会社
VIET NHAT TAN PRECISION MECHANICAL COMPANY LIMITED

プロフィール

2012年、ホーチミン市にて創業。創業者は元最高経営責任者(CEO)のグエン・タイン・フン。フン社長は日本に8年間、日本語学び、企業に就職、金属等の精密加工技術と経営とを学。帰国後、精密加工会社を設立し現在にいたる。40%は輸出、60%は国内販売、主に日本と米国の進出企業に精密加工部品を納入する。最小注文個数は1個、見積は1時間以内に回答をモットーとするベトナムでも稀有な部品メーカー。

>> この企業のプロフィール情報を見る

文=新妻東一

さらに詳細な情報を知りたい場合は
下記よりお問い合わせください。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

マッチング企業リストを見る

Bizmatchでは、日本企業との資本提携や業務提携を希望するベトナム企業の情報をデータベース化し、一部公開しております。特定業種の企業を絞り込んで検索することなどもできますので、ベトナム企業についてお調べの方はぜひご活用ください。


サービスメニューのご案内

Bizmatchでは、ベトナムにおける戦略的なビジネスパートナーを見つけていただくための各種支援サービスをご提供しております。『ベトナムの市場を開拓したい』『ベトナム企業と商談をしてみたい』『ベトナムに取引先を見つけたい』『ベトナムの企業を買収したい』『ベトナム進出のサポートを手伝ってもらいたい』等、ベトナム企業とのマッチング実績が豊富なBizmatchに是非お気軽にご相談ください。



ベトナム企業インタビュー記事一覧へ戻る

おすすめ記事

カテゴリー一覧

ビジネスに役立つベトナム情報サイト
ビズマッチ

ページ上部へ戻る