世界204ヶ国を旅したパワーをヴィーガンチーズ開発に/フィリカ代表 丸山綾乃

 日本人女性がハノイでヴィーガンチーズを開発、タイホー地区に店を作ったという情報を得た。

 ヴィーガンチーズ?なんでも乳製品ではなく植物由来の素材のみを使用して作ったチーズなのだそうだ。面白い。

 取材をしたいと申し入れると、まずは彼女が新たに開発したヴィーガンチーズを試食してほしいと試食品が送られてきた。カマンベールチーズのように丸いチーズ「ジャパーナ(Japana)」と瓶詰めのレバーペースト「ヴォアグラ(Voie Gras)」の二品が届く。クラッカーと一緒に食べるとおいしいとのことだったので、クラッカーにチーズもペーストも塗りつけて食べてみた。どちらもおいしい。そしてコクがある。えっ、これが植物由来の素材から作られてるの?と目が点になった。

 ヴィーガン。最近よく耳にする言葉だ。英国ヴィーガン協会のウェブサイトによれば、菜食主義者、Vegitalianという言葉の頭3つの文字と後2つの文字をつなげて作った言葉とある。

 同サイトのヴィーガン主義の定義によると「食品、衣料品およびその他の目的で動物を利用し、動物に対する残虐な行為をできる限りかつ実践的に排除することを模索する哲学であり生活様式である」とされている。

 動物、ヒト、環境の利益のために動物由来でない代替品の開発と使用を推進し、食習慣としては動物の全部または一部から由来する製品をなしにすますことだとされている。動物由来の食品には卵や魚、ミツバチから得られるハチミツも含まれる厳格なものだ。

 最近では畜産によって穀物が大量に消費され、温室化ガスのひとつであるメタンが牛のゲップから大量に放出されるとわかり、肉の消費を減らそうという動きもある。

 ヴィーガンが目指すところは動物愛護や健康のためだけとは言えないのだとわかる。

 今回取材したのはハノイ市タイホー区にヴィーガンチーズの店をオープンした丸山綾乃。コロナが一定収束したハノイではあるが、直接対面でお会いするのではなく、ZOOMを利用したリモートでの取材であることをお断りしておく。

 「最初にベトナムを訪れたのは2006年。バックパッカーとして旅行にきました。中国でも散々ひどい目に遭ったけど、ベトナムでは到着早々バス運賃をぼったくられたり、ホテルの従業員に襲われそうになって叫んで逃げたり、最悪の街ハノイ!って思ったけど、そこに暮して事業やろうとしてるんだから不思議ですよね」そう言って丸山は苦笑した。

 ベトナムで事業をやっている方の中でベトナムの第一印象は最悪だったと語る人は多い。それなのにベトナムに再び訪れ、事業をはじめたりしている。なぜなのだろう?

 ある人は悔しいと感じ、ある人はそこに人間臭さを感じ、ベトナムに働いて暮す選択をした。

 丸山の場合は単に夫の仕事の任地だったからだそうだ。再びベトナムの地に足を踏み入れたのは2020年のことだ。

「コロナの真っ最中でベトナムに入国。でもどこにも行けなくなってしまって。それまでは14年間、1年のうち、8ヶ月は海外を旅して風景や動物、水中を50m潜って写真を撮影して、また夫のいる場所に戻るような生活でした。訪れた国の数は合計204ヶ国にものぼります」と丸山。

 私はベトナムに住んではいるものの、本当は出不精で、彼女のように一年の半分以上を旅に費やすような生活はまったく考えも及ばないことだ。そのバイタリティたるや驚嘆に値する。

 マダガスカル近くのマヨットでスキューバダイビングをしたとき、ウエイトを身体に取り付けようとしたら、地元の人から海水の酸化が進み、ウエイトなしでも潜れるよと言われ、潜ったところその通りだった。しかしその海にはかつて豊かだった魚影はなかった。

 アフリカでも数少なくなった動物たちをカメラマンが一斉にカメラを向ける光景も目にした。「世界各国を旅するなかで、地球は確実にニンゲンの手によって破壊されている、そう強い違和感を感じていました。私もそのニンゲンのひとりですが」と真剣な表情で語る丸山。

 コロナの感染拡大でハノイにロックダウンで閉じこもる中で、彼女が旅の代わりに取り組んだのはヴィーガンの実践だった。

 「イタリアに留学していた際にヴィーガンの大切さを語る友人にも巡り合い、試してみたけど続かなかったんです。でもコロナで閉じこもっている中でヴィーガンを試してみると長年苦しんでいたアトピーも治り、体調も良くなったんです」

 地球環境の破壊を食い止めるために何か行動すると言ってもひとりでは何もできない。もどかしい思いをしながらコロナ禍にでもできることは何か、そう考えた丸山が思いついたのは植物由来の素材から造った代替食品、ヴィーガンチーズの開発だった。

 通常のヴィーガンチーズはデンプンやココナッツを固めて添加物を加えてチーズらしくしたものが市場にでまわっている。が、おいしくない。

 そこで彼女が試行錯誤して行きついた原料はベトナム産のカシューナッツだ。ベトナムのカシューナッツは世界第二の生産量を誇る。ただ生産の過程で割れてしまい、商品価値のないものが2割はでる。これを原料に用いればフードロスの問題の解決にもなる。

 当初ベトナムや中国にもある豆腐を発酵したものがチーズに近いことに気がつき豆乳を原料とすることも考えたが、大豆の独特の風味は欧米人には受け入れられないとわかりカシューナッツに行きついた。

 また旨味と甘みを出すためにベトナム甘酒の発酵に用いる米麹を手に入れて発酵に用いたが、どうも今ひとつだったため、日本の味噌蔵を30カ所巡り、納得のいく米麹も手に入れた。

 たとえヴィーガンであってもおいしくなければ、普及はしない。世界中を旅して自分の舌で選んだスパイスを混ぜて、7、8種のヴィーガンチーズを完成させた。

 2022年6月、ハノイのタイ湖畔にアンテナショップを開き、客の反応を伺った。

 「やはりヴィーガンの元祖であるイギリス人と米国、カナダ、アイルランドなどの人たちの反応がよかったですね。チーズが伝統に根付いている彼らはヴィーガンであってもチーズが食べたいんです」

 お客様に反応を見て欧米人に受ける味や日本人など東アジア人にも受け入れられる味もわかってきた。私が試食したヴィーガンチーズ「ジャパーナ」にはなんとコンブ、青のり、七味が練り込んであると言うから驚いた。

 欧米人は動物愛護や環境問題からヴィーガン主義に近づくが、アジア人は自らの健康のためにヴィーガンを選択する人が多いという違いにも気がついた。

 「これからはヴィーガンチーズのスタートアップ企業として資金を集めて工場も建設し本格的にベトナム国内に加えて世界への輸出をも考えたいです」

 204ヶ国を巡るだけのパワーを今度はヴィーガンチーズ開発に振りむけて、ベトナムからヴィーガンチーズを製造し輸出することを夢に描く丸山にエールを贈りたい。

フィリカ社
FIRIKA
丸山綾乃

プロフィール
 
福岡県生まれ。23歳でフィレンツェ語学留学で海外生活をスタートさせた後、ミラノのファッション専門学校にてディプロマを取得。その後香港、上海、台北、ハノイを移り住む。14年間写真家として活動した後、2022年にヴィーガンチーズ メーカー「Firika」を創業。

さらに詳細な情報を知りたい場合は
下記よりお問い合わせください。


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