縫製業に明るい未来をみているベトナム企業/スカイブルー生産・貿易・投資株式会社

 今回、インタビューに応えてくれたのが、ハノイから車で1時間30分のハイズオン省に本社がある縫製工場、スカイブルー投資・生産・商事会社だ。主にジャケットなどのアウター生産を得意としている縫製工場である。インタビューには人事部長のレー・ドアイ氏が対応してくれた。
 私も1986年に貿易商社に勤め、10数年前に退職するまでベトナムにおける繊維の開発輸入に携わってきた。具体的にいうと、ハノイの国営ニット工場に編機とミシンを提供して、ベトナムの綿糸を用いて、紳士・婦人向けの肌着の委託生産を行っていた。ベトナムで最終製品として輸出され、商品は日本の量販店の店頭に並べられた。私が携わっていた最後には年間1千万着もの製品を輸入していた。私が退職後も商品は引き続き生産され、店頭に並んでいる。
 ベトナムの繊維アパレル産業といえば、長年に渡ってベトナムの輸出製品として花形の時代が長く続いた。私が繊維の開発輸入に取り組んでいた1990年代から2000年代はじめまで、ベトナム製の工業製品として輸出品目の1位を占めていた。ベトナムの工場労働者も経営者もベトナムの産業をリードしているとの自負があった。
 最近ではコンピュータ電子製品、電話、機械類が輸出品目の半分近くを占めるようになり、輸出品目1位の座は譲ってしまっているものの、繊維製品は輸出金額の10%弱を占めており、いまだベトナムの産業の発展に寄与している。

 世界的にみれば、ベトナムの繊維製品輸出額は、インドに次ぐ、世界第2位に位置していると、ベトナム繊維衣料グループが2024年末に発表している。ベトナムの繊維縫製業は、国内的には輸出品目のトップの地位を譲りながらも、いまだもって世界中の繊維製品の需要に対する供給をになっていることがこれでわかる。
 ベトナムにとって追い風になっているのは、中国における労働者の賃金の上昇、そして米国をはじめとする国々の中国に対する貿易赤字が著しいため、中国からの輸入を忌避する傾向にあるからだ。
 繊維縫製工場のみならず、中国から東南アジア、南アジアへの生産工場のシフトは続いている。中国の企業が対中国で警戒する米国や欧州への輸出に対応するために、こうした地域へ進出を加速していることもベトナムを後押ししている。
 そしてベトナムは日本をはじめ、欧州などとも二国間、多国間の自由貿易協定を網の目のように締結している点も見逃せない。
 特にベトナムの縫製はベトナム人の手の器用さから来るものだろうか、その仕上がりには定評がある。
 もちろんベトナムにもチャレンジはある。つとに指摘されているのは、ベトナム経済が発展するにつれての賃金上昇だ。電子、電気産業の発達にともなって、比較的賃金の低かった繊維・縫製産業は都市近郊では労働者が集めにくくなり、工場の立地を地方へシフトする傾向にある。
 加えて、さらに低賃金のミャンマー、カンボジア、そしてバングラディシュなどの国々からの挑戦も受けている。バングラデシュは政変があれば経済も不安定となるため、それに救われて、ベトナムは繊維製品の輸出国として世界第2位の地位に返り咲いただけだともいえる。
 またベトナムの弱点は紡績や織物など糸や生地を生産する川上の産業の発達に大きな遅れがある。ベトナムは縫製業は盛んだが、糸や生地は主に中国など近隣諸国からの輸入に頼っているのが現状だ。そのため、場合によっては必要な糸や生地、副資材をバイヤーが供給しないと必要な製品ができないといったケースもある。ベトナムにおける繊維製品の開発輸入における大きな難点でもある。私もベトナムにおける繊維の開発輸入の際に直面した問題点でもある。

 ベトナムと世界の縫製産業のこうした背景のもとで、スカイブルー社はコロナ禍の2021年に創業した。代表はレー・クイ・ハイ。設立当初の従業員数は30名程度だったそうだ。
 新しい工場を立ち上げたものの、戦略やアイディア、資本、人材、マネジメント、顧客なども含めて、不足しているか、十分でない中で困難を極めたそうだ。
 その中でももっとも関心を払ったのが、労働者の生活の向上だった。労働者にはよい賃金をもたらして、長く働いてもらうことを基本にすえた。
 ハイには10年にわたって縫製業に携わってきた経験があった。そして何よりも縫製業に対する愛情があり、その10年の経験の中で関係をつくってきた顧客も自分についてきてくれた。そうした「経験と財産」をもとにハイはスカイブルー社を運営してきた。
 主にジャケットや防寒着などのアウターを生産し、時には医療従事者向けの衣料品やニット製品の縫製もこなすという。生地や資材の提供を受けて加工賃のみを受け取る加工賃契約(CMPT)に加えて、製品の仕様書を受け取って、必要な生地・副資材を揃えて製品として輸出するFOB契約にも対応している。生地は主に香港経由で大陸中国の資材を用いている。副資材はほとんどベトナムで調達できるそうだ。

 輸出向けの製品が100%で、仕向地は、韓国、米国、中国、シンガポール、そして日本だという。主な顧客は、ファストファッションのFOREVER21、GAPやウォルマート、台湾のOB STYLE、日本向けでは、デザイナーズブランドも手がける日本のアパレル縫製業からの注文も受けている。
 昨年2024年一年間の輸出数量は86.4万着。従業員数も100名を超えた。設立当初から実に3倍化だ。人事部長のレー・ドアイは自社の躍進ぶりに自信をもっていた。
 コロナ禍では困難もあったのではとの問いかけに対して、ドアイは「逆にコロナ禍で取引量は増加した」とのこと。コロナ禍での起業という難事を乗り越えただけのたくましさが同社にはありそうだ。
 最後にスカイブルー社が目指す夢はなにかと尋ねると次のように答えた。
 「より付加価値の高い、すなわち価格の高い商品にどんどんチャレンジしていきたい。そのことによって従業員に対する賃金をあげて、より長く働いてもらうことだ」という。従業員の満足が製品の品質を決定すると人事担当のドアイはそう考えているようだ。ベトナムの繊維産業が受けている挑戦に対する回答のひとつといっていいだろう。
 「スカイブルー」と空の青さのように明るい未来を展望して名付けたという。衣・食・住という言葉通り、どんな時代にあっても衣料品を扱うアパレル産業は今後もなくてはならない産業だ。安価で使い捨てのファストファッションに対する反省が市場にも生まれて、機能性や付加価値がアパレルに求められる時代。
 社名の通りベトナムの縫製業に明るい未来をみているスカイブルー社と日本のアパレル産業がともに発展する未来を描いてほしい。そう願わずにいられなかった。

文=新妻東一

スカイブルー生産貿易投資株式会社
SKYBLUE PRODUCTION TRADING INVESTMENT JOINT STOCK COMPANY

プロフィール

2021年ハイズオン省に縫製工場を設立。代表はレー・クイ・ハイ。現在は従業員数100名、100%輸出のジャケット、防寒着など重衣料を得意とする縫製工場。加工賃契約、FOB契約に対応。主な輸出先は韓国、米国、日本など。より付加価値の高い商品へのシフトを求めている。

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